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山形大学医療ADR学術研究会について
ADRとは何か
裁判以外の紛争解決手段をADR(Alternative Dispute Resolution)と呼びます。
ADRの種類には、規範でなく合理による解決がなされます交渉から、相談、あっせん、調停(日本型民事調停)、メディエーション、仲裁(arbitration)があります。排他的な権限を持ち法規範による裁断的解決を行う裁判が上位とすれば、いわゆるADRは、それ以外はすべて裁判外紛争解決法として位置づけられることになります。このADRのなかでも、裁判に近い型が前述の仲裁であります。これは手続きの開始(利用)に当事者の合意が必要でありますが、解決自体は、合意でなく、仲裁人の判断に服するというものです。これに対しメディエーション(あっせんプラス日本型の調停)は、手続きの開始(利用)はもちろん、最終的な解決も当事者の合意があって初めて可能となる自律性の高い解決モデルです。具体的には、中立的第三者たるメディエーターが当事者をエンパワーする一方、当事者の語りの中から紛争の構造を分析し、解決へのパスを見いだし、その方向に向けて対話促進し、幅広い柔軟な解決合意の形成を援助するというモデルです。本来は、第三者機関ADRでの紛争処理モデルでありますが(もっとも第三者機関として設定する場合には、これに事実認定機能などを付加した統合的モデルが、医療紛争の場合必須です)、院内初期対応にも、そのアプローチや概念、スキルを応用し効果が期待できるモデルです。医療機能評価機構患者安全推進協議会で提供しているのも、この院内医療メディエーション・モデルであり,ペンシルバニア州の医療事故紛争処理改革で提言されたのもこのモデルです)。
ここではメディエーションは、本来は第三者機関ADRのモデルであると同時に、院内初期対応への応用モデルでもあることを理解します。
医療メディエーションとは何か
現在,医療事故調査制度が開設されて5年以上となります。
医療事故調査機構は第三者機関として絶対に必要でありますが、問題は機能する中身です。
厚生労働省的な行政主導型や上からの決め付けではなく、現場感覚をいれた、有機的で、第三者機関と連動するような各医療機関内でのコンフリクトマネジメントを構築することから始める必要があります。各医療機関内での十分な調査や、両当事者・関係者の声を聴くことが重要になります。
さて、そこで、各医療機関内で、どういったコンフリクトマネジメントを構築するのかが、「医療メディエーション」です。
医療事故をめぐって問題が発生した時には、過失の有無にかかわらず、患者・家族側の期待からの視点と、医療者側の考える安全の視点には、認識の差が歴然として判明してきます。このような現実のギャップを背景に、医療者側と患者側との間には、不信に根ざしたディスコミュニケーション(適切な対話の欠如)が発生してしまいがちです。近年、社会背景と個人状況は複雑多様化しており、医療者は、患者とその家族に対して、その信頼関係構築には細心の注意を払う必要があります。そのためには、医療の現場において、次の二つの次元でのコミュニケーション(対話)を推進していくことが重要です。
ひとつは日常診療の場面で、「対話に基づく信頼関係」を構築していくこと、すなわち、何かが起こったときに、完全な不信とディスコミュニケーションに陥らないような関係性を創り上げておくことです。信頼関係の中で、一定のリスクをめぐる情報を患者側とも共有でき、かつ支えていけるような対話過程です。
二つ目は、実際に、問題が発生した際に、どのような対応を取るかです.医療者側が、合理的な説明をこの時点で行ったとしても、「不幸な結果」に直面した患者側にはまったく伝わらないでしょう。ここでも、まず、失意と感情的反応にとらわれた患者側の苦悩に共感しながら、「最低限の信頼」を回復し、その上で、その気づきを促していく過程を援助するような対話をしていくことが重要となります。この際に有効なコミュニケーションを促進し、当事者自身による問題解決の達成を援助していくかかわりの仕組みとスキルが、いわゆるメディエーションです。これは、日本語では対話促進型調停ということができ、後述するADR(Alternative Dispute Resolution=裁判外紛争解決)のモデルのひとつであります。
異なる価値観・異なる利害をもった患者と医療者、また事故に直面し、それぞれの固有の立場から感情的にも混乱している患者と医療者が、メディエーターの援助のもとで、エンパワーされ、相互のリスクや状況認識について、少しずつ気づきを見いだしていきます。その結果、平和的とまでは言えないにしても、少しでも不毛な対立を避け、いずれにとっても苦しい体験を乗り越えていくきっかけを見いだしていくための対話過程として紛争解決を位置づける視点が、その背景にあります。
医療事故訴訟が増加する一方で、その限界やネガティブな社会的影響も明らかになってきています。防御的医療や特定診療科の医療供給体制のゆがみなどは、とりわけ地域医療において、より増幅した形で現れてきています。訴訟の増加は、産科医療の集約化に典型的に見られるように、医療安全面で万全を期しがたい地域医療機関からの医師の移動を促進する作用を持ち、実際、医師の都市集中、事故リスクの少ない開業医への転身などの動きを加速しています。また被害者であります患者側にとっても,訴訟は必ずしも,好ましい選択肢とは言えないえません。多くの患者が求める医療側との対話や,誠実な対応などが,訴訟の場ではほとんど省みられないからです。
こうしたなかで、訴訟のような対決型・攻撃防御型の紛争解決手段にかえて、医療者と患者の間に対話の場を提供し、双方にとって納得の行く、将来志向的で柔軟な解決を自律的に創造できるような紛争解決機関への関心が高まってきましたのが2004年頃の訴訟が増加した頃からです。
協賛組織である日本医療メディエーター協会(理事長:高久史麿)が2007年3月には設立され、医療メディエーターの公的認定が始まりました。現在、日本医療機能評価機構、早稲田総研インターナショナル、日本医療メディエーター協会などで、年間、のべ400名超、病院団体・個別病院での協会監修プログラムを合わせると、年間900名近い人材養成が行われています.医療メディエーター養成プログラムは、2003年から日本医療評価機構で和田仁孝・中西淑美によって開発され、2004年に試行、2005年から本格的に運用され、養成が始まりました。2012年には、患者サポート体制充実加算体制が、診療報酬上に認定されています。
■院内の医療メディエーターについて
ADRには、使いにくい裁判に変えて法的解決を簡易迅速に提供しようとする発想に立つものもありますが(法律家主導のADRに多い、裁断型ADR)、対話や感情的対立への手当てを求める医療事故紛争の当事者のニーズからみる限り、そうしたミニ裁判のようなADRではなく、まさに対話のなかで紛争を解決していくモデルが必要です。対話型ADR、それがメディエーションというモデルです。
もちろん、対話といっても単純なコミュニケーションやカウンセリング的対応をいうのではなく、患者側、医療者側それぞれが構築している紛争の認知構造を,ナラティブをベースに分析するIPI分析という手法によって解析し、それに基づき、解決へいたるパスを見出し、当事者が自律的にそれをたどり納得のいく解決に至るように、ナビゲートしていく高度な倫理的分析とプロセス管理のスキルがそこでは必要とされます。これらの総体が対話のなかで達成されていくがゆえに対話型ADRと呼ぶのです。
このメディエーションは、本来、第三者機関での紛争解決モデル、およびスキルではありますが、院内での初期対応や様々な場面にも活用することができます。 医療メディエーションとは、医療対話推進の概念患者さんのみならず、関係する当事者と共に創る協働意思決定の対話過程です。
2004年より医療機能評価機構において,院内メディエーターの養成に取り組んできており、すでに数千人を育成してきています。
このような形で、患者側にとっても、医療側にとっても、また医療安全の向上にとっても有益な紛争解決方法が定着すれば、地域における医療者=患者関係の再構成にも貢献することとなり、地域医療の活性化にもつながってきます。もとより、紛争解決手段の改善のみで地域医療が再構成されるわけではないですが、その定着は、日常診療における関わりや、より広い地域の医療機関と住民の間の良好な関係を促進していき、またそれが医療機関の透明な情報開示への姿勢や、住民の信頼をも強めていくことにつながっていくのです。
山形大学での取り組み
本会は、日常診療・患者対応から医療事故・紛争において、非医療・医療者の区別なく、臨床の現場の実際的な観点から広く学術的研究に至るまで、様々な分野の医療従事者・研究者の意見交換の場として本会の発展並びに会員相互の懇親を深めることを目的としています。
本会の会員は,次の者をもって組織しています。
(1) 本会の趣旨に賛同する機関(以下「会員機関」という。)に属する医療従事者並びに研究者
(2) 機関会員の医療従事者および研究者
(3) 本会の趣旨に賛同する個人
2024年現在の世話人と会員施設はこちらをご確認ください。
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